はやひ研究所

haya"hi" Music Lab

田中賢 作品集

おそらく田中賢という作曲家を有名にしたのは1984年から1990年代前半にかけてヤマハ吹奏楽団によってコンクール等で演奏された作品群のインパクトだと思います。

とても現代的な書法なんだけどどこか日本的でリリカルな感じが心を惹きつけた理由ではないかと思います。今回の録音はそんな思いからずっと期待していた音盤でうれしい限りです。しかしながら「華」と「始原」がカップリングされていないのは少し残念です。

また若干ながら、「改訂」という作業には疑問を持つ一方で、自分も作曲をするという立場からその欲求とのジレンマに立つこともしばしばあることでもあります(基本的には出版してしまったら書きかえるべきではないと思っています)。

作曲家以外の人間は、聴きなれて、演奏しなれて、愛着を持って作品として成長したのに、作曲家はそれに満足せず、改訂作業を重ねていく。それがまた出版され直し、新しい録音がされ・・・聴く側(ときに演奏する側)としては前のものに愛着があるものだから余計に新しいものに対して拒絶反応が少なくありません(僕は保科洋の「風紋」や「愁映」に同じような感情を持っています)。

今回の改訂版も大概の(聴きなれてしまった)曲がそれに陥っていて、まとまった作品集が出た喜びの反面、少し残念な気持ちも歪めません。

演奏の方は木管、とくに笛(フルート)とクラリネットが秀逸です。しかし打楽器に関しては、(打楽器が工夫された曲だけに)皮物のチューニングとマレット選択に難が残ります。おそらくこの録音を通してトムやボンゴ類のチューニングは曲ごとに変えていないのだろうと類推します。曲によっては打楽器のある楽器が際立つべきところがチューニングが工夫されていないせいで沈んでしまったり、マレットの「ペタペタ」した音が気になります。スティックにも少し工夫をして粉をはたいたり、何かを貼ったりして皮のレスポンスがほしいところです。

また「メトセラ」や「ネレイデス」、「トーテムポール」が顕著ですが、コンクールでの演奏を聴きなれてしまっている自分と自衛隊の演奏のテンションの差に少しがっかりしてしまいます。でもがっかりするのは自分の勝手であって、やはり何ヶ月もかけて練習して歌い上げるあのテンションとは違うのでしょう。これはもしかしたらコンクールも逆弊害(?)かもしれません。

★★★☆☆